がんの種類別治療

1. 胃がんについて

胃がんでも、粘膜内にとどまっている早期がんは、ほとんどリンパ節に転移することがないことがわかっていて、内視鏡的(胃カメラ)治療が可能です。 この治療は内視鏡的粘膜剥離術(Endoscopic Submucasal Dessection:ESD)といって、手術とはいっても体に傷がつかない最も低侵襲な治療です。 これは、熟練した内視鏡医(消化器内科医)によって行われます。ただし、大きさが2cm以上であったり、未分化型という組織の場合や、内視鏡的切除後に病理検査をしてリンパ節転移の可能性があると判断された場合は手術が必要になります。 この場合は外科医が手術を行うことになります。
胃がんの手術方法は、胃の出口に近い場所にできたがんの場合は、幽門側胃切除といって、胃の 約3/4とその周囲のリンパ節を一緒に切除するのが一般的です。 胃の入り口に近い場所にできた場合は胃全摘術が必要になることが多いです。胃を切除した後は、残った胃と十二指腸や小腸と吻合を行います。
手術方法はStageI(とStageIIの一部)に関しては腹腔鏡手術を、その他の場合は開腹手術をお勧めしています。 腹腔鏡手術は、お腹に5カ所の穴をあけて、お腹の外からの長い鉗子操作で胃および付近のリンパ節を切除します。 その後上腹部に約4㎝の傷口をあけ、そこから切除した胃を外に取り出し、残った胃と腸を吻合します。 お腹の中で吻合を行う場合もあって、この場合はお臍の傷を広げて胃を取り出し、上腹部に傷はつきません。 切除する範囲や吻合の方法は開腹手術と同じです。この手術の最大のメリットは拡大視効果といって、腹腔鏡で、細かな組織が拡大されるためよく見えることで、結果的に丁寧な手術ができるので出血量が少なくすみます。 また、創部が小さいので術後の痛みが少なく、美容的にも優れます。 デメリットは、開腹手術よりも手術時間がかかることや、自動縫合器などの手術機材のコストがかかることがあげられます。
開腹手術はみぞおちから臍上あたりまでの、上腹部正中切開をおこなって、直視下に手術を行います。 メリットは直接手で臓器に触れることができるので、癒着の剥離がしやすいことと、進行した大きな塊のがんの切除や、脾臓、膵臓や結腸などの他の臓器を合併して切除しなければならない場合でも、比較的安全に対応できることです。 デメリットは体に大きめの傷がつきますので、術後の痛みのため、咳をしたり、体を動かす時も痛みを感じることが多くなります。
外来で手術予定日が決まったら、専門の呼吸理学療法士が術前から呼吸リハビリテーションが必要かどうか判断します。 もちろん、術後も病棟でリハビリテーションを継続していきます。手術後の肺炎などの合併症を防ぐために必ず禁煙をお願いします。
手術に必要な検査が終了している場合、手術の1〜2日前に入院になります。 当院では、手術翌日の朝の回診時に、状態を確認して離床の準備を行い、昼から歩行訓練を開始します。 離床ができたら透明な水分は摂取してもらってかまいません。食事開始はおおよそ術後3日目からです。 リハビリテーションと栄養指導などを行いますので、入院期間は約14日間です。 当院での外科手術症例数は年間約40〜50例程度です。

2. 大腸がんについて

大腸がんも、粘膜内にとどまっている早期がんは、リンパ節に転移することがないことがわかっていて、内視鏡的(大腸カメラ)治療が可能です。 この治療も手術とはいっても体に傷がつかない最も低侵襲な治療で、熟練した内視鏡医(消化器内科医)によって行われます。 ただし、内視鏡的切除後に病理検査をしてリンパ節転移の可能性があると判断された場合は手術が必要になるのは胃がんと同様です。
大腸がんの手術もがんができた大腸とその周囲のリンパ節を一緒に切除するのが外科手術の基本です。 大腸は数メートルほどの長い管腔臓器で、結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)と直腸に分類されます。 がん含んだ前後20cm程度の腸管を切除するのですが、胃切除と違って、消化吸収障害はあまり起こりません。 ただし、肛門近くの直腸にがんができた場合は、腸管の吻合ができない場合があり、この場合は人工肛門(ストーマ)となります。 人工肛門は腹壁に新しい肛門をつくるわけですが、意図的に排便をコントロールできませんので、パウチという専用の袋を貼付することになります。 当院には、皮膚・排泄ケア認定看護師がおりますので、外科外来までご相談ください。
大腸がんはがんの大きさが5cm以上あったり、他の臓器に浸潤(深くくいこんでいること)していたり、他の手術後で癒着が激しい場合であったりする以外は、すべて腹腔鏡手術をお勧めしています。
腹腔鏡手術では穴を5カ所あけて大腸および付近のリンパ節を切除します。 その後腹部に約4〜5㎝の傷口をあけ、そこから切除した大腸を外に取り出し、吻合します。 切除する範囲や、吻合の仕方は開腹手術と同じです。メリットは胃がんの腹腔鏡手術とほぼ同様で、拡大視効果でより丁寧な手術ができるため、出血量が少なく、体に優しい手術です。 術後の痛みが少ないので、離床も順調に進みます。デメリットはやはり、手術時間がかかることでしょうか。
大腸がんに関しては、患者さんが順調に回復するように、医師と看護師が中心となって、職種間(医師、看護部、栄養管理室、薬剤部、情報管理センター、医事課、リハビリ、ヘルパー、クラーク)で連携し、クリニカルパスの導入をおこなっています。 クリニカルパスとは、患者さんが安全、順調に術前術後がおくれるように、周術期管理の標準化をおこなった医療用の計画手順書のことです。
当院での大腸がん手術のクリニカルパスは、おそらく全国でも導入している施設がまだ少ないERAS(Enhanced Recovery After Surgery)programとよばれる、欧米型の早期回復プログラムです。 昨年、このクリニカルパスを作成したときは、医師が周術期管理に関するエビデンス(医学的根拠)収集と、ERAS program導入の目的説明を関連職種に行いました。 このパスでの栄養管理の特徴は、術前成分栄養ゼリーを摂取していただき、下剤内服はなしで、手術当日の朝6時までは水分摂取可能としたことです。 術後も輸液は極力減らし、翌日昼からの経口摂取再開を行っています。 ドレーンと呼ばれる腹腔内に留置する管も原則廃止し、抗生剤の使用も術中のみとしました。 リハビリも術前から計画的に行う様になっています。 外科医の慣習的術後管理を極力廃止し、エビデンスに基づいた早期回復プログラムが、当院でのERAS programとなっています。
このパスを導入しておおよそ1年以上になりますが、医療者側としてはほぼ満足できる結果が得られています。 ここに患者さんにお渡しするパスの表を提示します。
手術に必要な検査が終了している場合、手術の2日前に入院になります。 入院期間は約14日間です。 当院の外科手術症例数は約60〜80例程度になります。

3. 肝がんについて

肝がんは原発性肝がんと転移性肝がんに分類されますが、原発性肝がんの90%以上が肝細胞がんです。 肝細胞がんは他のがんと異なり、はっきりとしたハイリスクグループが存在し、日本では肝細胞がん症例の17%がB型肝炎、75%がC型肝炎が関係しているといわれています。 B型肝炎感染(出生時)から約50年、C型肝炎感染から25年を経て、肝硬変症(時に慢性肝炎)となりその一部から肝細胞がんが発生します。 最近は、メタボリック症候群の増加にともなって、非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:NASH)が原因の肝細胞がんもみられるようになってきました。
肝細胞がんの治療は、手術・経皮的焼灼療法(radiofrequency ablation:RFAなど)・肝動脈化学塞栓術の三本柱が存在します。 治療は腫瘍因子や肝予備能を考慮して選択し、また、それらを組み合わせて行います。 肝細胞がんは、治療を行った後も発がんのリスクは継続し、肝炎ウイルスの量が多い場合や肝硬変の場合、また違った場所に肝細胞がんができる可能性は残っています。 肝硬変の場合は1年間に約7%の肝細胞がん発生リスクがあるといわれていますので、胃がんや大腸がんのように、5年間無再発であればよいというものではなく、その後も定期的な検査が必要となります。 肝移植は、肝臓そのものをとり換えてしまう治療ですので、もっともよい治療効果が期待できますが、日本ではドナー不足の問題が解決されていません。
転移性肝がんの原発巣の頻度は1. 大腸がん、2. 胃がんですが、食道がん、乳がん、胆道がん、膵臓がん、腎がん、肺がん、等々多岐にわたっています。 転移性肝がんの治療は、原発巣や進行度によって治療は大きく異なります。

肝細胞がんの治療

手術(肝切除)

手術は肝細胞がんそのものだけではなく、肝細胞周囲の組織もいっしょに切除しますので、目的のがんそのものだけではなく、画像にうつらないような小さながん(衛生結節)も切除されますから、局所の制御効率はもっとも高いと思われます。 欠点はお腹に大きな傷がつきますし、全身麻酔を含めた手術リスクもあります。 また、肝切除には、残った肝臓の予備能力が十分であることが必要で、障害のない正常の肝臓の場合は、おおよそ2/3の量が切除できますが、肝炎などで障害をうけた肝臓の場合は、肝予備能が少なくなるため、切除可能な肝臓の量は少なくなります。 現在、肝予備能検査のICG(インドシアニングリーン)検査と、CTでの肝容積測定で切除できるかどうかを予測しています。
肝細胞がんでは術中の出血量が予後に影響を及ぼす可能性もあり、出血量の少ない丁寧な手術が必要です。 消化器外科としてもやや特殊な技能が必要で、日本肝胆膵外科学会では高度技能専門医制度を作っています。 現在、高度技能指導医として岐阜県内に14人の外科医がいます。当院での肝切除症例数は年間約15〜20例程度です。

経皮的ラジオ波焼灼療法(Radiorequency Ablation:RFA)

RFAは肝臓を超音波で観察しながら、皮膚を通して電極針を腫瘍の中心に挿入し、ラジオ波という電流を通電させ、針の周囲に熱を発生させ、腫瘍を壊死させる方法です。
針(電極針)は、太さが直径1.5ミリの金属でできたものです。 外科手術の時に、切除できない部位にあるがんを補助的に焼灼することもあります。
利点は、外科的な手術とは違い、傷口は針1本分ですので、治療後の安静や、全身の状態への影響が少ないという点です。 欠点は、超音波検査での間接的な観察が治療のベースとなりますので、治療が不十分になる可能性があるという点です。 この治療は当院の消化器内科で行っています。

肝動脈化学塞栓術(Trancecatheter Arterial Chemoembolization:TACE)

肝細胞がんは、進行すると肝動脈の血流が豊富になり、腫瘍への栄養を供給するようになります。 足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、肝臓内の腫瘍を栄養する細い動脈までカテーテルを進めます。 そこで抗癌剤などを入れ、動脈の血流を遮断し、腫瘍細胞を壊死させる方法です。
利点は、大きな腫瘍や、多発している場合に一度にいくつか合わせて治療することが可能です。 また、直接肝臓への血管から造影できるため、CTや超音波ではわからなかった腫瘍などを診断することができます。 欠点は、外科的手術や局所療法にくらべ、治療効果が不十分な場合があります。 この治療は当院の消化器内科で行っています。

転移性肝がんの治療

転移性肝がんの治療は原発巣によって様々ですが、大腸がんが原発巣の場合は、肝切除でがんが完全に切除できる時は、予後が改善することがわかっていますので、手術をお勧めします。 肝切除を行うには、やはり残った肝臓の予備能力が十分であることが必要です。 ただし、転移性肝がんを切除しても、リンパ節転移や肺転移などのために、がんが残ってしまう場合は、手術は行わずに全身的抗がん剤治療をおこなっていくことになります。

4. 膵臓がんについて

膵臓には血糖の調節に必要なインスリンやグルカゴンなどの内分泌機能と、食べ物の消化に必要なアミラーゼやリパーゼを含んだ消化液(膵液)を出す外分泌機能があります。 膵がんは、外分泌機能に関係する膵管上皮から発生した「膵管がん」が90%以上で、通常膵がんと言うときはこの膵管がんを指す場合が多いと思います。 膵がんは内分泌細胞から発生した膵がんや、粘液を多く出して嚢胞を作る比較的予後のよい膵がんもありますが、この「膵管がん」は治りにくいがんの代表です。 治りにくい理由として、膵がんに特異的な症状がないことや、膵がんになりやすい人がよく分かっていないため、早期の診断が難しいことが上げられます。 膵がんの進行度は腫瘍の大きさ、周囲への浸潤、転移の有無で決められていますが、膵がんの80%はStageIVの最も進んだ状態でみつかり、StageIでみつかるのは1.7%しかありません。 このため、膵がんの発生率は胃がんや大腸がんの1/3以下ですが、がんによる死亡の第5位となっています。

膵臓がんになるリスクとしてはっきりしているのは喫煙のみですが、肉類(特に燻製や加工肉)、血糖が高くなる食事、飲酒なども影響があると言われています。 コーヒーは1日3杯までは膵がんの死亡リスクを下げますが、4杯以上はリスクが上昇する事が報告されています。

膵臓がんの診断は、血液検査やエコー、CT、MRI、ERCPなどの検査を専門医が総合して行います。 当院には、膵臓、胆道診断の消化器内科専門医師、放射線読影専門医師がおりますので、安心しておまかせください。

治療は、手術が可能と診断した場合は手術をおこないます。
手術が適応となる条件は、1.膵臓以外の臓器にがんが転移してない場合、2.腹腔内の重要な血管にがんが浸潤していない場合、3.お腹の中の腹膜にがんが広がっていない場合となります。 膵頭部という膵臓の右側1/3の位置にできた膵がんは膵頭十二指腸切除という手術時間5時間から10時間程度のやや侵襲の大きな手術になります。 左側2/3にできた膵がんは膵体尾部切除という手術時間3時間から5時間程度の手術になります。 多くの場合は、退院後に、抗がん剤治療を6カ月から1年程度行うことになります。

手術が適応にならない場合は、抗がん剤治療が中心となります。 消化管バイパス手術、胆道ステントなどの症状をとるための治療も行いますが、現状では治癒は困難で、延命と症状緩和が目標となります。 手術が適応にならない進行例でも、抗がん剤と放射線治療を行った後に手術を行ったり、陽子線や炭素イオン線などの重粒子線治療などで治癒を望める場合もありますが、実際の膵がん治療は、十分満足できる成績ではなく、手術、抗がん剤治療、放射線治療を組み合わせて臨床試験をおこない、新たな標準治療を探っているのが現状となっています。

5. 乳がんについて

乳癌の症状

乳癌は、乳房の中のかたまり"しこり"として触ることが多いです。 皮膚の近くの乳癌では、エクボのようなひきつれができたり、乳頭や乳輪部分の湿疹やただれ、皮膚のむくみや赤みが出ることもあります。 乳頭の先から血の混じった分泌液が出ることもあります。 乳房のしこりがはっきりしない場合もあり、また反対にしこりがあっても乳癌でないこともあります。

乳癌の統計

最近、乳癌の死亡率・罹患率は増加傾向にあります。 2013年には乳癌で13,148人が亡くなっており、一生のうちにおよそ12人にひとりが乳癌と診断されています。 乳癌は、30歳代から増加をはじめ、40歳代後半から50歳代前半でピークを迎え、その後は次第に減少しますが、高齢となってもゼロにはなりません。

乳癌の発生要因

乳癌の発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっています。 体内のエストロゲン濃度が高いこと、また、経口避妊薬の使用や、更年期障害での女性ホルモン補充療法などはリスクが高くなる可能性があるとされています。 初潮が早いことや閉経が遅いこと、出産経験のないことは乳癌のリスクを高めます。血縁者に乳癌の多い場合には遺伝性乳癌の可能性があります。

検査について

1)視診・触診

乳房を観察して、形状や左右差、皮膚の変化を調べます。 次に指で乳房やわきの下に触れて、しこりの様子を調べます。

2)マンモグラフィ検査

病変の位置や広がりを調べるために行われる、乳腺専用のX線検査です。 乳房組織をきれいに映し出すために、板状のプレートで乳房を挟んで圧迫し、うすく引き伸ばして撮影します。 そのため、乳房を圧迫される痛みがありますが、視診・触診で発見しにくい小さな病変も見つかることがあります。 しかし、乳腺の発達している人では、病変が存在していても見つかりにくいことがあります。 当院では、画像診断の専門家である放射線科医師と、乳癌治療にたずさわる外科医師とで二重読影を行っています。

3)超音波(エコー)検査

乳房の表面から超音波を発生する器械をあてて、超音波の反射の様子を画像で確認する検査です。 乳房内の病変の有無、しこりの様子や、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無を調べます。 X線のように放射線による被ばくの心配がありませんので、妊娠中でも検査が可能です。 ベッドにあおむけに寝た姿勢で受けられ、痛みもなく負担が少ない検査です。

4)病理検査・病理診断(細胞診/組織診)

病変の一部を採取して、癌かどうかを顕微鏡で調べる検査です。 細胞診には乳頭からの分泌液を採取して行う分泌液細胞診と、病変に注射針を刺し、細胞を吸引して行う穿刺吸引細胞診があります。 細胞診検査は、体への負担が比較的少ない検査ではあるものの、偽陽性(癌ではないのに癌と診断されてしまうこと)や偽陰性(癌であるのに癌ではないと診断されてしまうこと)がまれにあるという欠点があります。 組織診は病理診断を確定するための検査で、生検と呼ばれています。 注射針よりやや太い針を使用する針生検、皮膚を切開して組織を採取する外科的生検があります。 細胞診に比べて確実な診断ができ、また調べられる細胞や組織の量が多いので、腫瘍についてより詳しい情報を得ることができます。

5)CT検査・MRI検査

乳房内での病変の広がり具合を診断するのに有効とされています。
CTやMRIでは造影剤を使用することが多いので、造影剤アレルギーが起こることがあります。

6)全身検索のための検査(CT検査、骨シンチグラフィなど)

乳癌が転移しやすい臓器には、肺、肝臓、骨、リンパ節などがあります。
癌の乳腺以外への広がりを調べるために、必要に応じて画像検査などを行います。

治療について

乳癌の治療は、手術、放射線治療、薬物療法(内分泌療法、化学療法、分子標的治療など)があります。 癌の様子や、全身の状態、患者さんの希望を考えて治療法を決めていきます。

癌が乳房周辺にとどまっている状態であれば治癒を目指した治療、転移や再発をきたした状態であればよりよい毎日を長く送ることを目標とした治療を行います。

1. 手 術

  • 1)乳房部分切除術
    腫瘍から十分離れたところで乳房を部分的に切除します。 乳房部分切除術は癌を確実に切除し、患者さんが美容的に満足できる乳房を残すことを目的に行います。 乳房部分切除術を受けられる条件については明確なものはなく、癌の大きさや位置、乳房の大きさ、本人の希望などにもよるので、主治医とよく相談しましょう。 通常、手術後に放射線照射を行い、残された乳房の中での再発を防ぎます。
  • 2)乳房切除術
    乳癌が広範囲に広がっている場合や複数のしこりが離れた場所に存在する多発性の場合は、最初から乳房を全部切除する乳房切除術を行います。 術後の予後は部分切除術とかわりませんが、同じ乳房内に再発する局所再発は部分切除術より少ないとされています。
    術後乳房再建を希望される場合も、放射線照射が不要な乳房切除術を通常は選択します。
  • 3)わきの下のリンパ節の切除(腋窩リンパ節郭清、センチネルリンパ節生検)
    癌の周辺リンパ節に転移があるかどうかは癌の進行度を決める大事な情報です。 手術前にリンパ節転移が明らかな場合には、わきの下のリンパ節の切除(腋窩リンパ節郭清)が行われます。 手術前にリンパ節転移が明らかでない場合には、見張りリンパ節の試験的な切除(センチネルリンパ節生検)が行われます。

2. 放射線治療

乳癌では、乳房部分切除術のあと、温存した乳房やリンパ節での再発の危険性を低くするために、通常は放射線治療を行います。 また、再発した場合に、癌の増殖や骨転移に伴う痛み、脳転移による神経症状などをよくするために行うこともあります。

3. 薬物療法

  • 1)内分泌(ホルモン)療法
    乳癌はホルモン受容体のあるものとないものに分けることができます。 内分泌療法は女性ホルモンの分泌や働きをおさえることによって乳癌の増殖を抑える治療法で、ホルモン受容体のある乳癌であれば効果が期待できます。 副作用については、化学療法に比べて軽いといわれていますが、顔面の紅潮やほてり、のぼせ、発汗、動悸などの更年期障害のような症状が出る場合もあります。
  • 2)化学療法
    化学療法は抗癌剤により、細胞増殖を制御しているDNAに作用したり、癌細胞の分裂を阻害したりすることで、癌細胞の増殖を抑えるものです。 化学療法は正常な体にとっても毒であるため、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなったりすることなどいろいろな副作用があります。 最近は化学療法の副作用に対する予防法や対策が進歩していることもあり、外来通院しながら治療を受けることが多くなっています。
  • 3)分子標的治療
    分子標的治療薬は、がんの増殖に関わっている分子を標的にして、その働きをおさえる薬です。 乳癌では、細胞の表面にあり乳癌の増殖に関わっていると考えられているタンパク質(HER2:ハーツー)の働きを阻害する抗HER2薬を、病理検査でHER2が陽性であることがわかった場合にのみ使用することがあります。

乳癌検診

症状が出る前に乳癌検診で癌が発見された人では、早い段階で治療を開始することができよい経過が期待されます。 自分の身を守るため、定期的に乳癌検診を受診しましょう。